コラム

東京オリンピックの開催前後で住宅価格はどう変わった?

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「東京オリンピックが終わったら住宅価格が下落する」と聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。

 

住宅の購入や売却を考えている方にとって、東京オリンピックの開催前後で住宅価格がどのように変化し、そして今後どのように推移していくのか気になるところでしょう。

 

そこで今回は、2021年12月現在で判明している情報をもとに、オリンピックの開催前後で住宅価格がどのように推移したのかを解説します。

 

 

 

東京オリンピック開催までの住宅価格は上昇傾向

 

まずは、東京オリンピックが開催されるまで、戸建住宅やマンションなどの価格がどのように推移したのかをみていきましょう。

 

以下は、2010年の平均価格を100としたときの不動産価格指数の推移です。不動産価格指数とは、不動産価格の動向を表す指数であり、国際的な基準にもとづいて国土交通省が算出しています。

 

 

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※出典:国土交通省「不動産価格指数(令和3年7月・令和3年第2四半期分) 」

 

総合的に見ると、住宅価格は年々上昇していることがわかります。一方で、住宅の種類ごとに価格の推移は大きく異なります。

 

戸建住宅や住宅地は、2010年からほぼ横ばいです。それに対して区分所有のマンション価格は、2013年4月から価格が大幅に上昇しています。

 

また2021年に入ると、すべての住宅において価格が上昇していることがわかります。

 

 

 

東京オリンピック前後で住宅価格に大きな変化はない

 

では、2021年7月以降の住宅価格はどうなったのでしょうか?以下の表は、2021年7月から9月までの不動産価格指数をまとめたものです。

 

〇全国

  2021年7月 2021年8月 2021年9月
住宅総合 122.0 123.2 122.5
住宅地 103.9 109.3 104.2
戸建住宅 108.7 107.9 107.7
マンション 167.3 168.7 170.1
 

※出典:国土交通省「不動産価格指数 」

※2010年の平均を100とした値

※上記は2021年12月に発表された速報値をもとに作成しており今後改定される可能性があります

 

 

住宅総合をみると、オリンピックが開催された2021年8月と比較して、同年9月の住宅価格はやや下がっていることがわかります。

 

住宅地の価格については、2021年8月に前月よりも上昇しましたが、同年9月には7月の水準に戻りました。戸建住宅の価格については、ほぼ横ばいです。マンション価格は、2021年7〜9月にかけて少しずつ上昇しているのがわかります。

 

とはいえ、全体的にみると大幅な価格変動は起きていないといえるでしょう。

 

また都市圏別の不動産価格指数をみると、南関東圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)のマンションが、2021年7月の161.4から9月には164.9へと3.5ポイント上昇しています。しかしそれ以外では、大きな価格変動はみられませんでした。

 

 

東京オリンピック前後で、住宅価格に多少の上下はあったものの、大きな変動は見られませんでした。そして今後も、東京オリンピック終了による不動産価格の暴落は起きにくいと考えられます。

 

大会の終了後に景気が大きく後退しなければ、不動産価格の暴落は起きないでしょう。景気が大きく後退するのは、オリンピックの開催決定から開催前までに景気が大きく成長したときです。

 

日本は、すでにインフラが整備されていることもあり、東京オリンピックの開催が決定した2013年から開催前まで大きな経済成長はありませんでした。

 

また東京オリンピックは、新型コロナウイルス感染症の影響により無観客で開催され、海外客の受け入れができなかったため、開催期間中も景気は過熱していません。

 

 

 

近年は夏季オリンピック終了後に住宅価格の暴落が起きていない

 

みずほ総合研究所の調査によると、1990年代以降に夏季オリンピックを開催した7カ国のうち、開催翌年の経済成長率がマイナスとなったとのはスペインのみでした。アメリカや中国ブラジルなど他の6カ国は、開催翌年の経済成長率がプラスとなっています。

 

オーストラリアや中国については、オリンピック開催後に景気が減速しました。しかし、これはITバブル崩壊やリーマンショックの影響であると考えられており、オリンピックが原因とは言い難いでしょう。

 

また近年開催された夏季オリンピックは、中国やイギリスなどほとんどの開催国で大会終了後に不動産価格が上昇しています 。

 

 

 

住宅価格の高騰は金融緩和政策が主な要因

 

2013年以降、マンションを中心に住宅価格が上昇しました。東京オリンピックにより、施設の建設やインフラの整備によって建築費が高騰したことも、価格が上昇した要因の1つでしょう。しかし建築費の高騰だけでなく、政府の金融政策も大きく影響しています。

 

2013年4月に日本銀行は、異次元金融緩和政策を開始したことで、住宅ローンの金利は大幅に低下しました。底値ともいえるほど住宅ローン金利が低下し、マイホームを購入する人が増えたことで住宅価格は上昇していったと考えられます。

 

2021年12月現在も金融緩和政策は継続中です。日銀の黒田総裁は、日本の物価が安定するまで今後もしばらく継続すると発言 しています。そのため東京オリンピックが終了したとしても、住宅価格が暴落する可能性は低いといえるでしょう。

 

 

 

住宅価格はさまざまな要素で決まる

 

オリンピックの開催前後で住宅価格に大幅な変動はみられませんでしたが、今後も変化がないとは限りません。

 

例えば、東京や神奈川など今後人口が増えると予想されるエリアは、住宅価格が上昇しやすく、人口が減少するといわれる地方都市は下落しやすいです。

 

一方で同じエリアにあっても「戸建住宅とマンション」「新築と中古」「築浅と築古」「居住用と投資用」などで値動きは異なります。

 

さらに2022年には、住宅ローン控除の改正が予定されており、節税効果が減少する見込みです。制度の改正により住宅需要が減って価格が下落するという予測もありますが、現時点では不透明です。

 

住宅価格は、市況だけでなくエリアや築年数などさまざまな要素で決まります。買いどきや売りどきは、状況に応じて適切に判断する必要があります。

 

 

 

マイホームの購入や売却のタイミングはひとそれぞれ

 

住宅を購入するタイミングは、ご自身の資産状況や今後のライフプランも踏まえて検討することが重要です。売却のタイミングについては、不動産の市況だけでなく物件の築年数も考慮する必要があります。

 

例えば、子どもがいる世帯がマイホームの購入を検討するとしましょう。子どもの進学予定やかかる教育費など将来的に発生する支出を考えて資金計画を立てた結果、欲しい物件に手が届くのであれば購入しても良いと考えられます。

 

購入や売却のタイミングは、不動産の市況も確認したうえで、ご自身の状況に合わせて検討することが大切です。判断に迷うのであれば、不動産会社の担当者やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

【コラム執筆者】

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品木 彰(シナキ アキラ)

プロフィール

保険・不動産・金融ライター。ファイナンシャルプランナー2級技能士。大手生命保険会社や人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。年間で700本以上の記事執筆に加えて、不動産を始めとしたさまざまな記事の監修も担当している。

https://daisakukobayashi.com/