金融不安が広がったことで住宅ローンの固定金利が引き下げに!理由を解説

2023年4月現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が終息に向かいつつある一方で、アメリカを中心に記録的なインフレが発生しています。
インフレを抑えるために、アメリカでは政府によって金利が引き上げられていますが、その影響により経営破綻をした金融機関が現れました。そのため、大きな景気の悪化が起こるのではないかという不安を抱える投資家が増えています。
金融危機に対する不安により、住宅ローンの固定金利に影響が出ています。本記事では、金融危機の不安が住宅ローン金利に与える影響や、固定金利を検討するうえで大切なポイントを解説します。
2023年に金融不安が起こった理由
2023年3月に米国の金融機関であるSVB(米銀シリコンバレーバンク)が経営破綻しました。経営破綻した主な理由は、預金口座からお金を引き出す企業が増えたことです。
アメリカでは、記録的なインフレを抑えるための利上げが行われているため、企業は経営や設備投資をするための資金を融資で調達するのが困難になりました。
預金口座からお金を引き出す企業が増えたことで、SVBは増資を発表します。しかし、この発表により「SVBの経営は苦しいのでないか」という懸念が投資家のあいだで広まったため、SVBの株価が急落し、わずか数日で経営破綻しました。
また、2023年3月にはスイスの大手金融機関であるクレディスイスの経営不振が報じられて、同社の株価が急落しました。
その後クレディスイスは、スイスの最大手金融機関であるUBSによって買収されたことで、経営破綻は回避されています。
これらの出来事が続いたことで、投資家のあいだでは「リーマンショック級の金融危機が起こるのではないか」という懸念が広がっています。
金融不安と住宅ローン金利はどう関係する?
金融危機の不安が広まったことで、住宅ローンの固定金利が低下しました。その理由を詳しく解説します。
金融不安の影響で10年国債の金利が低下
投資家のあいだで金融危機の懸念が広まると、国債の金利が低下します。これは、リスクが高い資産である株価を手放して、安全資産である国債を購入する投資家が増えるためです。
国債には「価格が上がると金利が低下する」という特徴があります。国債を購入する投資家が増えたことで、国債の価格が上昇して金利は低下しました。
国債金利の影響で住宅ローンの固定金利が低下
金融機関は、新初10年物国債の金利に代表される「長期金利」を指標として、住宅ローンの固定金利を決めています。そのため、国債金利の低下にともない、金融機関の多くは2024年4月から住宅ローンの固定金利を引き下げました。
しかし、今後も国債の金利が下がり続けるとは限りません。金融不安が広がるまでは、国債の金利が上昇傾向にあったためです。
詳細な説明は割愛しますが、国債金利が上昇していた理由は、低金利である日本とインフレを抑えるために利上げを続けるアメリカとの金利差が広がっていたためです。
また、2022年12月に日銀(日本銀行)が金融政策の内容を一部見直したことも、金利が上昇していた理由です。
住宅ローンの固定金利は2023年1月から一時的に上昇していた
日銀は、金融政策の方針を話し合うための会合(金融政策決定会合)を年に数回開いています。2022年12月の金融政策決定会合では、長期国債の変動幅を±0.25%から±0.5%まで拡大することが決められました。
国債の金利が上昇しそうなとき、日銀は国債を買い入れて金利上昇を抑えようと試みます。
これまでは、10年国債の金利が0.25%を超えないように買い入れを行っていましたが、その方針は変更され0.5%までの上昇は許容されることになりました。
その結果、10年国債の金利が0.25%から0.5%まで上昇したため、2023年1月から各金融機関は住宅ローンの固定金利を引き上げています。
固定金利型住宅ローンを組むときのポイント
固定金利は、返済開始から一定期間の金利が固定され、その間は毎月の返済額が増える心配はありません。
しかし、マイホームの売買契約や建築請負契約を結んだときと、融資が実行されるときで金利が変わる可能性がある点には注意する必要があります。
融資が実行されたときの金利上昇を想定する
住宅ローンの毎月の返済額や利息額は、融資が実行されたときの借入金利で決まります。融資が実行されるのは、基本的にマイホームが引き渡されたときです。
マイホームの売買契約を結んでから引き渡しまでには、1か月以上かかるのが一般的です。マイホームを新築する場合は、契約から引き渡しまでの期間はさらに長くなるでしょう。
固定金利の指標となる10年国債の金利が、今後どのように動くのかを予測するのは困難です。金融不安が広がったことで10年国債の金利は下がりましたが、日米の金利差が拡大すれば再び上昇するかもしれません。
そのため、2023年に固定金利型の住宅ローンを組むときは、融資が実行されたときに多少金利が上昇しても問題なく返済ができるのかを確認することが重要です。
金利が0.2%上がると返済額はいくら変わる?
ここで、融資が実行されたタイミングで金利が上昇していた場合、毎月の返済額や返済総額はいくら変わるのかをシミュレーションで確認してみましょう。
試算条件は、以下の通りです。
- 借入額:4,000万円
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等方式(毎月の返済額を均一にする返済方法)
マイホームの契約を結んだときの金利が1.5%、融資が実行されたときの借入金利が1.7%であった場合、毎月の返済額や返済総額は以下の通りとなります。

シミュレーションの結果、借入金利が1.5%から1.7%に上昇すると、毎月の返済額は3,957円、返済総額と利息額は1,661,940円増加しました。
毎月の返済額を比較するとあまり増加していないように思えるかもしれませんが、返済期間が35年ともなると返済総額には100万円以上の差が生じます。
固定金利型の住宅ローンを組むときは、金融機関や不動産会社の担当者にも相談し、融資実行時の金利上昇も想定してマイホーム購入の資金計画を立てることが大切です。
まとめ
- 2024年3月に米国の金融機関にあるSVBが経営破綻し、スイスの金融機関であるクレディ・スイスも経営不安も報じられたため、世界的に金融危機が懸念された
- 金融危機の不安が広がったことで安全資産である国債が買われて価格が上昇し金利が低下した
- 10年国債の金利が低下したことで住宅ローンの固定金利も低下
- 固定金利を借り入れるときは融資が実行されるときに金利が上昇しているケースを想定して資金計画を立てることが大切
【コラム執筆者】

品木 彰(シナキ アキラ)
プロフィール
保険・不動産・金融ライター。ファイナンシャルプランナー2級技能士。大手生命保険会社や人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。年間で700本以上の記事執筆に加えて、不動産を始めとしたさまざまな記事の監修も担当している。
https://daisakukobayashi.com/